Vol.1 スポーツアナリスト 渡辺啓太

スポーツ

匠  vol.1 『ITの無限の可能性をスポーツの世界へ』
スポーツアナリスト 渡辺啓太

1964年東京五輪での金メダル獲得。全日本女子バレーボールチームは「東洋の魔女」と呼ばれ世界の頂点に立っていた。しかし、一時は日本のお家芸とまで言われた女子バレーは、次第に低迷期に入っていく。
そんな低迷期から、日本を再び世界の舞台へと押し上げたのが、「復活請負人」柳本晶一氏。そして彼の跡を継いだのが、「IDバレー」の眞鍋政義氏。
眞鍋監督時代には、2010年の第16回世界選手権で1982年大会以来32年ぶりのメダルとなる銅メダルを獲得。そして、2012年8月のロンドン五輪では、ロサンゼルスオリンピック以来28年ぶりに銅メダルに輝いた。
そんな2人の名将を支え続けた人がいる──それが、スポーツアナリスト・渡辺啓太氏。
ITの無限の可能性を女子バレーの世界にもたらした影の仕掛け人。

渡辺氏は言う「僕たちスポーツアナリストは選手を輝かせるために居る」と。
身長の高さや手足の長さが一番の武器となるバレーボールの世界において、いかにして日本女子バレーは世界と戦う強さを身に着けたのか? その強さの裏には、データを武器に変えた匠の活躍があった。

 


 

スポーツアナリストの定義

 

ITの進化とともに、アナリストの力も進化する

スポーツアナリストとはどういった役割を担っているのだろうか。その肩書きだけではなかなか見えてこない。眞鍋監督時代には、常にその横に立つ姿が見受けられた渡辺氏だが、コーチとは何が違うのだろうか。
「明確に違います。監督やコーチは自分たちのキャリアから優れた感性や鋭い感覚を持ち、それを基に指示を出します。そういう点を非常にリスペクトしていますが、僕らスポーツアナリストは、すべてデータを通して伝えないといけません。そこにあるのは、客観性や、データ分析から出た“事実”です。それを基に話をする必要があります」。話をうかがうと主観性と客観性という、まったく逆のベクトルからチームを見ているのがわかる。目標達成のために、情報面で専門的なサポートをする。企業で言うと、秘書のような役割をするのが彼らスポーツアナリストの仕事なのだろう。

 


 

情報を“伝える”ということ

その情報は本当に”伝わって”いるのか!?


ビジネスの世界でもデータを伝えることは難しいものだ。上司が部下に「言っただろう!」と、言う場面を見る機会も少なくない。そんな中、データをスポーツに反映させる、言葉として情報を伝えることは会社のソレよりも大きな壁があるように感じる。
「スポーツの世界では、ただでさえデータとか数字は受け入れられにくいものなんです。だから、重要なのは選手に寄り添い、選手たちの立場になって考えること。僕が考えているほど寄り添えていないかもしれませんけど……」。渡辺氏が情報を伝える時のポリシーは「“伝えた”ってことをゴールにするんじゃなく、“伝わる”ことをゴールにする」ことだそうだ。どこまでも噛み砕いて、選手がその情報を吸収できるところまで持っていく。情報は受け取る側もだが、伝える側にも努力がいる。ただ、情報を投げるだけでは、“伝えた”ことにはならない。当たり前のことだが、それを当たり前に実践できるからこそ、彼は監督や選手の信頼に足る男なのだろう。

 


 

選手を輝かせるために

僕は選手としてはそんなにでしたが……

「バレーの場合は試合中も選手に言葉を伝えることができるスポーツなので一緒に戦っている! という思いがあります。僕らが伝えた情報によって選手のプレーが変わったり、苦しい状況から打開できたり、自分が力になれていると感じられた時はすごくうれしいですね」。これはアナリストに限ったことではないかもしれない。最も近くで監督や選手を支えるチームの一員として、やりがいを感じる瞬間だろう。自分にできる最大限のことをやり、思いを託す。コートの中に立つことができるのは選手だけ。だからこそ、「選手たちを輝かせるために僕らが居る」と語る渡辺氏の中には、強い信念とスポーツアナリストとしての矜持が見えた。仕事の醍醐味とは彼のように、その道を極めようとする中で見えてくるものなのかもしれない。

 

心で会話する力

監督や選手から学ぶことは多い

 

眞鍋氏と常に行動を共にする姿が印象深い

では、スポーツアナリストになるために必要な資質とはどのようなものなのか。データを分析する力は当然だが、それだけで通用する世界なのだろうか。ここで重要なファクターとして渡辺氏が挙げたのが「コミュニケーション力」。奇しくも眞鍋氏も同じことを強く語られていた。(※)データや数字といったデジタルな世界からはかけ離れたアナログな感じがするが、それは欠かせない要素だと言う。
「データというのは客観的な事実かもしれない。けれど、それを相手に渡す時に物事をしっかりと橋渡しできるような関係を監督やコーチ、選手と作れているかが大事なんです」。
確かに、いきなりやってきた人に「分析ではこう出ている」とか、「統計的にはこれが正しい」と言われても、そこにあるのは単なる“数字”で、すんなりと受け入れられるものではない。だから渡辺氏は「ボール拾いもするし、荷物運びもする」そうだ。同じ目標に向かって同じように活動する。その中で信頼関係を構築することで、単なる“数字”だったものが初めて情報として意味を持つようになる。
「最初に考えることはチームのために何ができるかということ。そこから自分の強みであるデータ分析を活かしていく。データ分析能力があるだけではダメなんです。選手と、そしてトップの指導者たちと心で会話ができるというのが間違いなく必要です」。

眞鍋政義氏のインタビューはコチラから!!


 

未来を見据えて

まだまだ新しい世界は広がっていく


チームが強くなるためにメダルを獲るために貢献する、これまでにもやってきたことだし、これからもそれは変わらない。けれど渡辺氏はすでに次のステージに進もうとしていた。「“勝つためのデータ”という見られ方が非常に強いんですけど、データの持つポテンシャルはもっとあると思っています」。これまでのチームのため、選手のため、スポーツをする人のためだけではなく、これからは観る人のためのデータ活用を模索しているそうだ。
IDバレーと呼ばれた眞鍋監督時代を経て、その目はより広い世界、スポーツアナリスト全体の未来を見据えている。そのひとつがJSAA(日本スポーツアナリスト協会)設立である。そこには「自分がトップランナーとして良い前例を作るだけでは足らない。次の世代に繋がるような環境や機会を準備していきたい」という思いが込められていた。
今後もスポーツアナリストとしての渡辺氏の挑戦は続いていく。そんな彼の姿を見て、多くの人たちがスポーツアナリストを目指す時代が来るのかもしれない。

 

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匠 のこだわり

匠の仕事道具

iPad Pro

道具についてうかがうと出てきたのが「iPad Pro」だった。納得というか、やはりというか……。
眞鍋氏が試合中にiPadを手に指示をだしていたことについて尋ねてみた。
「デジタルの端末を使うことによって、紙で印刷したものをセットとセットの間に走って届けていた時代に比べて監督への情報提供が飛躍的にスピーディーになりました」。リアルタイムで選手の動きを確認し、常に最新のデータで指示を出せることは大きなアドバンテージになったと言う。
日常生活でも持ち歩き、思いついたアイデアや気になることを書き留めたり、過去のデータやビデオを引き出して活用しているそうだ。

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