匠 vol.6『お笑い・紙芝居師・天気キャスター』
気象予報士 くぼてんき
気象予報士 くぼてんきとは
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tvk(テレビ神奈川)お天気キャスターとして日々天気予報を行うくぼてんき氏。
地域に密着した天気予報が人気。
トレードマークの髪型と、天気によってシャツの色を変えるなどの取り組みが視聴者をファンに変える。
天気予報を行う一方で、防災士・こども環境管理士・紙芝居師・東京都認定大道芸人(ヘブンアーティスト)など多面的な活躍を見せる。
気象予報士の勉強をしながら吉本総合芸能学院(NSC)で漫才などを学び、その後出会った紙芝居師の求人が今の講演スタイルを創り出した。
今年はなんと言っても災害の1年。
日本と防災の今後、またその多彩なキャリアについても伺った。
講演活動への取り組み
聴講対象は?
どのような主催者様からお問い合わせがありますか?
聴講対象はどのような方々が多いでしょうか。
くぼてんきさん(以下、くぼさん)
一番多いのは小学校です。
学校の体育館で生徒・児童の目の前に立って講演することが多いです。
それから自治体の防災イベント関連。
今は小学生向けの防災イベントが実施されることも多くなっています。
また直近では病院のお祭りイベントにも伺いました。
お年寄りが多いと事前に伺っていましたが、一般の方も多くいらっしゃいました。
小学生からお年寄りまで、広くファミリー向けに講演を行っています。
講演でお話する際に気をつけているポイントはどこでしょうか。
子どもを対象にすることも多いと思いますが、特に工夫していることはありますか?
体育館で児童を前に紙芝居を行う際には、人数によってはスクリーンを利用します。
大規模な企画であれば数百人の聴講者がいます。
理解度にも気を配ります。
1年生と6年生が同時に楽しめるように紙芝居をするにはどうすればよいか。
そこが小学生向けの講演の難しいポイントです。
まずは早めに子どもたちのこころを「掴む」ことを意識しています。
仲良くなる、というか。
「このおっさんは誰なん?先生なん?」
という警戒心を解くことですね。(笑)
紙芝居なしでトークのみ、というパターンもあるのでしょうか?
もちろんです。
特に大人向けに防災の講演を依頼された場合は紙芝居なしで60分、ということもありますね。
紙芝居をするのとトークのみの場合で違いはありますか?
トークのみの場合にもスライドをスクリーンに写して頂くことが多いので、自身のスタンスとしてはあまり変わらないかもしれません。
気象予報士と防災士について
気象予報士と防災士の関係は?
気象予報士と防災士にはどのような関係があるのでしょうか。
くぼさん
気象予報士を取ったときに「防災士も一緒に取った方がいいんじゃないか」ということを周りから言われていたんですね。
ただ当時はあまりピンと来なかったというか。
気象予報士を取ったばかりで時間もありませんでしたし。
その考えを変えたのは東京に引っ越してから経験した東日本大震災でした。
ちなみに私は小学6年生のときに阪神淡路大震災も体験していたんです。
人生で2回も大震災に遭うなんてそのころは思ってもいませんでした。
でも2回も災害を経験したのなら防災について学んでおいたほうがいいな、と感じたんです。
気象と災害というのは大きな関連がありますから。
特に今年は災害が多い1年という印象です。
体験したことのない暑さ、豪雨、大地震、猛烈な台風など。
防災士として今の日本で求められる防災について感じていることを教えてください。
どこで何が起こってもおかしくはないということを念頭に置いています。
例えば台風は接近してくる様子が見えるので、災害への備えを早めに周知することができます。
しかし地震の場合はそうはいきません。
いつどこでどんな災害が起こるかは誰にもわからないということをまず意識しなくてはなりません。
紙芝居の中に熱中症をテーマにしたものもありまして。
その中で最高気温を紹介した一枚があるんですが、気温のランキングを修正したそばからまた1位が更新されてしまうこともありました。
地球温暖化の影響が様々なところに現れているんですね。
温暖化というよりは「極端化」だと思っています。
例えばこの冬、気温がグッと下がったら年間平均気温は例年並みということになるかもしれません。
数字の上では「あれ?あんまり気温って上がっていないのかな?」って。
世界に目を移すと、日本で非常に暑い夏があってもヨーロッパに大寒波が到来した場合、世界の平均気温はあまり例年と変わらないということになるんです。
大阪で育ったくぼてんき様は阪神淡路大震災を経験されたと伺いました。
大震災の恐ろしさとはどんなところにあるのでしょうか。
くぼさん
小学6年の3学期、1月。
朝早く、まだみんな寝ている時間でした。
揺れ始めたときは寝ぼけてなにもわからない状態でしたが、両親が「こっちの部屋に逃げて来なさい」と。
移動した瞬間に、寝床にランドセルと教科書がバタバタっと落ちてきました。
そのときは何が起きたか全くわかりませんでした。
東日本大震災のときは東京に住んで紙芝居の会社に所属しているときに被災しました。
会社の目の前に住んでいたので、幸いにも帰宅難民にはなりませんでした。
しかし同僚の家族が帰宅難民になったこともあり、自分にとっても決して他人事ではありませんでした。
私が当時住んでいたエリアは木造の家屋が多く、地震の揺れで「火事か!?」と思うほど砂埃が舞っていました。
その時自分がいる場所によって、どんな状態に陥るかが変わってきます。
家族が遠くにいたら電話をしても繋がりにくいということもあるでしょう。
自分の話になりますが、息子が来年の春に小学生になります。
それに合わせて小学校の近くに引っ越そうと思っています。
私は何かあってもある程度逃げたり隠れたりすることができますが、子供はそれができません。
逆に言うと’近くにいること’は災害に対し、家族で最大限にできる備えの一つです。
西日本豪雨の際には大規模な浸水が発生しました。
「ハザードマップを知らない、見たことがない」という方も多かったということが報道されていましたが、防災に関する意識を高めていくためにはどのように市民にアプローチしていくのが有効でしょうか。
町内の防災イベントに地域のみんなが集まる、というのが一番効果的だと思います。
市民参加型でお子さんからお年寄りまでが集まれるといいですね。
あとは家の周りをみんなで散歩するというようなイベントがあっても良いはずです。
家の周囲に何があるか知っておく、ということですね。
そのとおりです。
先程も言ったとおり、小学校の近くに引っ越す計画を立てています。
そこでその学校の周囲を子供と一緒に見て回ってきました。
川や崖、ブロック塀。
大きな公園があったので何かあったらここに集合しようと話しました。
こうしたことが各家庭でもされるようになれば防災意識が高まるんじゃないかと思っています。
防災教育において今後大切にすべきことはなんでしょうか。
被害を風化させないために市民や組織にできることは何でしょうか。
小学校の科目で「防災」という時間を設けたら良いんじゃないでしょうか。
台風や地震で命を落としてしまうと国語や算数だって学ぶことができません。
それくらい災害って身近なものですから。
実は私が防災士の資格を取ったときに行ったことが、妻にも防災士の試験を受けさせるということでした。
女性の視点、あるいは他の人の視点がほしいということで。
奥様はそれに対してどのようなリアクションをされたんでしょうか。
元々そうしたことに興味があったので進んで受けてくれました。
防災士は年齢制限もないですし、広く間口が開かれているものなので。
子供ももう少し大きくなったら受けさせたいなと考えています。
くぼてんきというキャリア
くぼてんきはなぜオンリーワンなのか
21歳で気象予報士の資格を取得されたとありますが、相当大変だったんじゃないですか?
くぼさん
そうですね、当時では若い方だったんじゃないでしょうか。
高校を卒業後、ダンサーを志して日々練習に打ち込んでいました。
ですがある時、腰を故障して半年間寝たきりになってしまったんです。
ヘルニアと疲労骨折の併発でした。
人生終わったなー、と意気消沈。
落ち込んでいたところ、たまたま見ていたテレビに気象予報士の石原良純さんが出演されてたんです。
そこで「気象予報士」という資格を知りました。
その時はずっと寝たきりですることが何もなかった。
僕の中で一番賢い友人に頼んで参考書を2冊買ってきてもらって。(笑)
それが始まりでした。
元々空が好きだったというのもあったんですが。
それが18くらいのころ。
石原良純さんが人生のターニングポイントに!
そうなんです。(笑)
ダンサーを志したのもそうですが、自分の根底には人前に出てなにかするのが好きというのがありました。
また、それからしばらくしてNSCに入学。
学校を卒業する頃に気象予報士の試験に合格。
その間はお笑いと気象の勉強をずっと並行してやっていましたね。
どっちかに専念したほうがよかったんじゃないかとも思いましたけど。(笑)
なかなかハードなスケジュールだったんですね!
くぼさん
自分としてはそれでよかったなーと思っています。
お笑いに天気のことを絡めるというのをやっていたんですが、気象というのは命が関わることもあるのでなかなか難しかった。
当時のマネージャーに「君は人を笑わせるよりも『へぇ~』といってもらえるようなネタのほうがいいんじゃないか?」
と言われていました。
その時は笑わせたいんだという気持ちが強く、腑に落ちなかったんですが。
その後、紙芝居師の求人に出会いました。
紙芝居の中で、自分が培ってきたお笑いと「へぇ~」が融合するような感じになりました。
どちらか一方では成立しなかったでしょうね。
特にこの話は「へぇー」が多いなという領域はありますか?
地震の「揺れ」の実験などが一番「へぇー」が多いです。
話の掴みとして大人の方にウケがいいのは気象キャスターとしての、いわゆるテレビの裏側の話。
子どもたちが興味を持って聴いてくれるのは漫才・お笑いの話ですね。
距離をグッと近づけて聴いてくれる話というか。
あとは拍子木を使うこともあります。
懐かしい音、という印象が特にお年寄りにはありますし。
子どもたちにとっては「一体なにが始まるんだろう」というワクワクにつながるので、やりやすい空気を作るのに一役買っています。
眠くなったら鳴らしますよ!とか言ったりして。(笑)
吉本を卒業して漫才師、紙芝居師、気象予報士と多方面で活躍されるくぼてんき様のキャリアは、会社員として定年まで勤め上げるという既存の価値観に囚われないものです。
ご自身のキャリアと講演についてどのように感じますか?
たまに子どもたちに将来の話を聞くことがあります。
キャリアや仕事観をテーマに講演のご依頼をいただいたこともあります。
子どもたちに質問はなにかある?と聞くと「漫才やりたいんですけど」と言われることもありますね。
お天気の紙芝居を単にするのではなく、即興でボケを考えてもらってそれに対する質問を考えたり。
中学生に対する講演のほうが小学生に対してよりもトークの難易度は高いんですが、
そうしたやり取りをすると目の色が変わって距離感がグッと近くなる。
「あーもっと早くやっておけば良かったー!」って。(笑)
講演と言いつつも、僕がボケてお客さんにツッコんでもらったり。
参加型で、お客さんと漫才している感覚に近いです。
早めに「この場は笑っていいんだな」と思ってもらえるとやりやすくなります。
お笑いのエッセンスを講演にも活かしているんですね。
気象予報士についてはどうでしょう。
業界には先輩方が大勢いて、若い自分が偉そうなことを言うことは出来ませんが。
でも気象予報士だけでもすでに1万人いるんです。
紙芝居でも何百人かはやっているでしょうか。
そうするとそれぞれの分野で1番になるのはなかなかハードルが高い。
でもそれらを掛け合わせればオンリーワンの立ち位置が見つかるんじゃないかと。
するとそこで長く活躍することができます。
先輩方を追い越してナンバーワンになるのは難しいですからね。
今後新たにチャレンジしていきたい領域があれば教えてください。
どちらかというと今やっている領域を深く、広げていきたいという思いです。
割と色々なことにチャレンジしてきた方だと思うので。(笑)
やっていることをいろいろな人に伝えて、役に立つ情報をお知らせしていければいいなと。
聴講者や主催者様向けにメッセージがございましたらぜひお願いします。
私の強みは講演対象の年齢層が広いことです。
小さなお子様からお年寄りまで。
赤ちゃんでも紙芝居を幼稚園で見ていたりしますから、興味を持ってくれるんですね。
お年寄りは紙芝居を見て育っている方も多いですから「懐かしい」と感じていただけます。
紙芝居という共通点が聴講者の中に出来るので、みんなで一体感をもって見てもらえます。
一緒に見てもらえると、家に帰って防災のことを喋ってもらえます。
おじいさんおばあさんの世代が小学生に地域について教える。
子どもたちは学校で教わったことを話す。
それが地域を強くしていくと信じています。
是非よろしくお願い致します。
匠 のこだわり
紙芝居
防災や熱中症などテーマごとに複数所有。
専門のイラストレーターにデザインしてもらったもの。
オリジナルキャラクターが優しく天気や防災について解説してくれる。
講演の際には紙芝居用の台、木枠と共に持ち運ぶ。
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