vol.7『ざんねんないきもの事典』 図鑑制作者 丸山貴史

図鑑制作者 丸山貴史 ベストセラー


図鑑制作者 丸山貴史

匠 vol.7『ざんねんないきもの事典』
図鑑制作者 丸山貴史

 

図鑑制作者 丸山貴史とは

 

図鑑制作者 丸山貴史
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生き物の調査、撮影から、執筆、編集、監訳、校閲、組版まで、様々な工程に携わる図鑑制作のスペシャリスト。
執筆を担当した『ざんねんないきもの事典』は、2018年の年間書籍ベストセラーランキングで第3位(日本出版販売調べ)、“こどもの本” 総選挙で第1位を獲得。同じく執筆を担当した『わけあって絶滅しました。』は、発売半年で43万部のベストセラーとなっている。

丸山貴史氏に講演会への取り組みや生き物の面白さ、これまでの経歴を伺った。


講演会への取り組み

図鑑制作者 丸山貴史


‐‐講演会の主催者様や聴講される方々について教えてください。

丸山貴史さん(以下、丸山) 聞きに来てくれるのは、基本的に親子ですね。
この本(『ざんねんないきもの事典』)は小学4年生ぐらいを対象にしているので、そのあたりを中心に、会場によって話す内容の難易度は変えています。

呼んでいただけるところというのは、地方自治体や、学習塾、子供向けのイベントが多いですね。
200人以上が入るような大きめの会場で話すこともあります。

‐‐講演でお話をされる際、お子様が多いことで意識されているのはどのようなところでしょうか。

丸山 講演は1時間から1時間半ですから、学校の授業よりだいぶ長くなってしまいます。
なので、スクリーンで見せる画像も、ダチョウの首を短く加工すると体のバランスが悪くなることを示し、子供たちの笑いを誘うようにするとか。
ひとつの話題があまり長くならないようにしつつ、「次は『ざんねんないきもの』の話です」といった前置きをして、そのつど空気を変えるように工夫しています。

あと、子供たちに直接、「どうしてこんな風に首が長くなったと思う?」みたいな形で、ちょくちょく問いかけています。
そうすると、最初のうちは前の席に座っているやる気のある子だけ手をあげていたのが、だんだん釣られて後ろの子も手を上げてくれるようになりますね。

–特にリアクションのあるエピソードであるとか、子供たちの反応が良い動物はいますか?

丸山 ダチョウは食いつきがいいですね。
『ざんねんないきもの事典』に載っている「ダチョウは脳みそが目玉より小さい」というエピソードは、この本の中でも1、2を争うほど人気があります。
それに、私は若いころにイスラエルのダチョウ牧場で働いていたので、ダチョウに関してはほかの本に載っていないような個人的な体験を話せるんです。

それで、子供たちにウケればその部分を広げたり、難しくてあまり反応がよくないところはその話を短くしたりして、時間を調節しています。

図鑑制作者 丸山貴史

 

図鑑制作という仕事と子供たちにとってのキャリア

–図鑑の制作や本の編集といった仕事に対して、子供たちが興味を持つこともあるでしょう。その場合、親御さんからどのような勉強をすればいいのか質問されることはありますか。

丸山 この間の学習塾での講義では、「勉強へのモチベーションを上げる」ことをテーマの一つとしてトークをしました。
そこで、やっぱり算数など理数系の教科を怠けると、生き物について専門的な勉強はできなくなるよとか。

学校で英語の勉強をしておけば、いきなりイスラエルに行っても、1週間もすれば会話できるようになるよとか。
自分のざんねんなエピソードも交えつつ、なぜ勉強したほうがいいのかという話をしましたね。

–どの時点で生物って面白いなとか、そういったことを仕事にしたいなと自覚されたんでしょうか。

丸山 子供の頃ってみんな虫を採ったり、図鑑を読んだりしていたと思うんですけど、段々ほかのことに興味が移ってしまいますよね。でも私は、高校生になってもしつこく生き物が好きで、学校をさぼって遠くの動物園に行ったりしていました。
大阪に海遊館という水族館がオープンして、ジンベイザメが来ると聞いたときは、青春18きっぷで鈍行を乗り継いで見に行ったりもしましたね。

そんな感じだったので、何かしら生き物に関わる仕事をしたいなという気持ちはだんだん芽生えてきましたけど、具体的に就職について考えはじめたのは大学に入ってからです。

保護者の皆さんから「生き物が好きな子供を、どういう道に進ませたらいいですか?」という質問をよくいただきます。
そんなとき私は、「子供のころは、あらゆることに興味を持つよう導いたほうがいいですよ」とお答えしています。

「虫と哺乳類と両方好きなんですけど、どっちにいかせたらいいですか」という質問には「どっちも好きでいいと思いますよ」って。当たり前なんですけどね。

将来ずっと同じものを好きでいるとは限りませんし、いろんなことに興味があったほうが、専門的な勉強をする上でも柔軟な発想ができると思います。

図鑑制作者 丸山貴史


–大学在学中から、自然科学系の編集プロダクションで働くというようなことは考えていらっしゃったんでしょうか。

丸山 私は中学から受験して早稲田実業に入ったんですけど、高校に入学したらもう勉強をやる気がなくなって。
数学や物理が全くわからなくなっちゃって、早稲田大学への推薦を受けられなくなったんです。
そんなわけで、外部受験をして法政大学の法学部に入りました。

でも、正直言って法律には興味がなかったので、文系でも生き物に関われる職業には、どんなものがあるのかなと考えました。
そこで、大好きだった図鑑をつくるという仕事に思い至ったんです。
本の編集というのは文系が多い仕事なので、大学の最後の夏休みから図鑑を制作する編集プロダクションにアルバイトで入って、そのまんま就職という感じでした。

–子供たちや学生からしたら、本の編集というのは人気職種のイメージがありますが、「編集」「校閲」って言っても子供たちにはわかりにくいですよね。

丸山 本の制作はやったことのない方からしたら、わからない作業が多いですよね。

私は元々編集者としてスタートしたんですけど、独立して以降は、企画から、執筆、校閲、印刷所に入稿するデータの組版まで、なんでもやるようになって。
自分で写真も撮りますし、最近は監訳という翻訳本の監修まで行っているので、図鑑制作を総合的に行っているということで「図鑑制作者」と名乗っています。

だから講演でも、図鑑制作の工程について話すこともありますし、「生き物好き」を活かせる仕事は理系だけのものじゃなくて、いろいろな関わり方があるんだということを伝えています。

図鑑制作者 丸山貴史


–今、「好きを仕事に」というフレーズがキーワードになっています。
子供のころに好きだったものが今の職業につながっているということですが、親御さんは丸山さんの「生き物好き」に寛容だったんでしょうか。

丸山 基本的に「好きなようにしろ」みたいな感じではありましたね。
だから「仕事辞めてイスラエルに行く」って言ったときも、「ハッ?」みたいな感じでしたけど、「本気で行きたいなら、後悔しないように行っとけば?」と。

当時は、後で仕事につなげようという意識なんか全くなくて、行きたいから行っただけだったんですけど。
結果的にはそういうことが全部、なんとなく役に立っているのかなというのはありますね。

本やインターネットで調べただけではわからない、現地で実際に体験したことが話せるっていうのはやっぱり強みだと思います。
先ほどのダチョウ牧場もそうですけど、ガラパゴス諸島やコモド島にも行きましたし、アフリカではサバンナのついでにキリマンジャロにも登頂しました。ほかにも、ボルネオやサハラ砂漠、キューバ、ロシア、オーストラリアなど、30か国以上で動物を観察していますからね。

 

いきものの「進化」の面白さを伝えたい

図鑑制作者 丸山貴史


–『ざんねんないきもの事典』では「どうしてこんな進化をしたのか」というところがテーマになっていると思いますが、最新刊『わけあって絶滅しました。』では絶滅した動物を取り上げています。
進化の次に絶滅をテーマに持ってきたというのは、何か理由があるんでしょうか。

丸山 絶滅も結局は進化の結果なんですよね。
絶滅っていうのは、環境に適応できなくて滅びたということです。
そして、恐竜が絶滅した後に哺乳類や鳥類が適応放散したように、絶滅と進化っていうのは表裏一体なんです。

かつては生き残るのに有利だった特徴が、環境が変わってしまったため無駄になった。
あるいは、同種間での競争の結果、進化しすぎてかえって環境に合わなくなってしまった。

そうした「不適応」だったり「過剰」だったりする部分を、ただ笑って終わらせるのではなくて、「進化」の証拠だという切り口で見せたのが『ざんねんないきもの事典』です。
そして、そうした環境に合わない部分を抱えて滅びた動物に、敗因を語ってもらったのが『わけあって絶滅しました。』なんです。
どちらも、ただ「ヘンだね」というだけでは、ここまでヒットはしなかったと思います。

–そうですね。ヒットしたのはやっぱり、この「ざんねん(=環境に合わない)」というテーマと進化を結びつけたからだと思うんですけれども。

丸山 タイトルの「ざんねんな」という言葉に拒否反応を起こして、「オレの大好きな動物をバカにするのは許せん」という方もいらっしゃいます。
でも、全体を通して読んでもらえれば、進化の不思議さや面白さがわかってもらえるはずです。

もともと行き当たりばったりなんですよね、進化っていうのは。
いつも現環境で最適化をしていますから、環境が変わって最適じゃなくなると、また別方向に進化する。
だから、進化というのは一本道ではなく寄り道だらけなので、「ざんねんな」部分が出てくるということなんです。

–「サイの角は、ただのいぼ」とか、普通の図鑑にはない表現で強く印象に残ります。
ちょっと難しそうな進化というものが、こういう切り口で紹介されることで「ああ、そうなんだ」って子供たちにも楽しみながら伝わるような内容になっていますよね。

丸山 サイのいぼは、従来の図鑑では「爪や髪の毛みたいなもの」という説明がよくされているんですけど。
皮膚が角質化して固くなったものっていうのは、まさにいぼなんですよね。
でもそういう表現をする本はなかったので、「ただのいぼ」っていう見出しのインパクトが大きかったということでしょう。

『わけあって絶滅しました。』でも感じたんですが、自分は当たり前だと思って話したことに、意外と驚かれる場合があるんですよね。
動物が好きな人たちだけで本を作っていると、どうしてもマニアックになってしまって、マスにアピールするような本はできませんでした。
でも、これらの本は、いい編集者の方と出会えたことで、子供からお年寄りまで大勢の人に受け入れられるものになったのだと思います。
本を作る上でもやっぱり、人と人のつながりは大事ですね。

図鑑制作者 丸山貴史


–こうした図鑑制作をする上での喜びを教えてください。

丸山 他の図鑑と同じ切り口で情報だけが新しいというのではなく、今までにないタイプの図鑑を作って、それが受け入れられたということは嬉しかったですね。

–「企画は誰に向けて立てるのか」というテーマでも講演をされているんですね。
児童書というのは読むのは子供ですけど、購入するのは保護者ということで、親に買ってもらえるような工夫が必要になるかと思うんですけど。

丸山 まずは子供が手に取ってくれないと話になりません。
その上で、「これを買って」と言われた時に、なんらかの読むメリットがあると親にも思わせないとダメなんじゃないかと思うんです。

パッと見で面白い雰囲気を出しつつも、「進化がわかる」みたいな知識を得られるよってところは明確にしないといけない。
単に動物をバカにしている本じゃないよっていう主張を、うざくならない程度に混ぜるというか。

あとはやっぱり読みやすさですよね。
これらの本は、適当にページをめくって、興味のあるものから見てもらえばいいですし。

1種につき1~2ページで、さっと読めるのもよかったようです。
「もう1ページだけ読もうと思ってついつい最後まで読んじゃった」みたいな感想もいただきました。
やっぱりマニアックな部分をそぎ落として、短くまとめたのがよかったんだろうなと思います。

これらの本のサイズは四六判というんですが、『ざんねんないきもの事典』のヒット以降は四六判の生物本のブームが続いています。
今は書店の児童書のコーナーに行くと、このサイズの本がたくさんありますよ。

–今後もやはり図鑑制作を続けられていくんでしょうか。

丸山 そうですね。
子供が生き物に興味を持つ入り口になるもの、そしてもっとくわしく知りたいと思ってもらえるような本を作っていきたいと思っています。


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図鑑制作者 丸山貴史

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生き物の素晴らしさ、進化の面白さを伝える丸山貴史氏。
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